邦星堂和楽器店ブログ

これからの尺八は5孔のままなのでしょうか？。勿論、尺八は楽器（道具）と同時に音楽（文化）ですから、便利さと共に、「好み」も重要なファクターですので、個人がどういう選択をしようと自由なのですが、それでも趨勢というものは有ります。
今の状勢を見ると、5孔がほとんどで7孔は1割以上2割未満ではと思います。しかも、これには地方差が激しく、大雑把に言うと7孔使用者は都会に多く、地方だと「7孔の優位」が発揮できる民謡伴奏ですら、まだ5孔がほとんどです。
50年前だと7孔尺八は、まだ非常に珍しく、その後の20年で急速に普及しましたが、この「2割にまだ届いていない」状態は、ここ30年変わっていないように感じます。私が思うには7孔派は、もうこれ以上は増えない（尺八全体の比率として）と思います。特に、外国では日本以上に使われていませんので、この判断は妥当だと思っています。
私個人の好みで言えば、7孔尺八は楽器として面白くない。今の時代は、尺八吹きのほぼ全員が音痴演奏をしていた50年前とは違い、メリカリのコントロールが出来ない人は少なくなっています。プロでなくても「音程コントロールに苦労しない人」は多くなりました。そうなってみると、「自在な操作コントロールが楽しめる5孔の方が面白い」ということになるのです。ですから、スライド開閉やメリ動作を必要としない奏法等で、プロでなくても「7孔は不便。下の小孔はかえって邪魔」という人達が出てきました。そう言う理由で、7孔に代わって多くなってきたのが、上の小孔だけ開ける6孔派です。私は、今後はこのタイプが多くなるのではないかと思います。7孔を「食う」のは勿論、場合によっては5孔に代わって主流になる可能性すら有ると思っています。

私が初めて6孔尺八を見たのは、1975年です。難波竹山が使っていました。彼は大学は違えど私の1年下、つまり身分に天と地の違いが有るのです。ですから名前に敬称を付けないのは当然の事、会話に敬語すら憲法違反です（マサカと思うなら六法全書を隅から隅まで読んでみな、結果は保証しないけど）。
彼が6孔を使っていた理由は、今の6孔使用のプロ達が言う事と同様です。一番はチハ（半音）ーと同一音量で引っ張れるからです。付随して5孔では出ないツ大甲（膝で菅尻を塞ぐなんてのは昔は有りませんでした）が出せる利点も有りますね。難波は早くからプロを目指していましたし、当時の都山流では演奏技量では邦山先生の次の次、坂田誠山先生の次くらいではなかったですかね。これは余談ですが、ついでに誉めとくと、尺八を完全に「内吹き外吹き」で吹ける初めての人らしいです。実力者が揃った邦山会の中でも技術的上手さではトップクラスですよ。意外と難波とは会う機会が無くって、ヤツも「先輩である大橋さんには、まだ尽くし足りない。申し分けない」って思ってると思うが、そんなことは良いんだ、気にしちゃいねえ・・・。
その後、注意して見てるとプロで6孔を使っている人が多いんだな、これが。気が付かないのは穴が中継ぎの上に有って、普段指で隠れて見えないからです。現代曲を演奏しないと商売にならない都山系のプロに多いですね。琴古でも歌謡曲伴奏の多い上遠野衛なんかは使っています。

使うソフトによって、楽器の形態に変容が起こるのは当然ですし、また古いタイプに新たなる発見が有ったりもします。フルートも木製に新たな用途が求められたり、ピアノも前身であるチェンバロや初期ピアノを使った音楽に面白さを見出す人もいます。私も初期ピアノで、それが存在した当時の曲を演奏したのを聞きましたが、あれも良いものですね。音の減衰が速いのと音の曇り、残響の濁りが特徴ですね。だから文化や芸術は良いんですよ、様々な面白さが有って。新旧もタイプの違いも、結局のところ上下でも対立の関係でもありません。バリエーションの多さは芸術としての豊かさです。尺八だって、地無し、5孔、6孔、7孔、スーパータイプが有って、それぞれに、いろんな誉める意見、貶す意見が有るでしょう。それを聞いてたら退屈しませんや。でも、ここ当分の注目は6孔尺八です。