邦星堂和楽器店ブログ

若い頃、タイやインドネシアなどの熱帯アジアに行くと、時には川に沿って舟を使って移動しました。すると水辺の掘っ立て小屋から子供達が盛んに手を振って、コインを投げろと催促してきます。観光客が、それに応じて金を川辺に投げると、子供達が先を争って水に飛び込んで拾い上げるわけです。
これって、どう思います。小説家の石川達三みたいに「繊細な神経」を持つ人達は、心が傷つくそうです。でも時代性が有りますね。石川達三の時代よりも、現代の日本人は格段に「世界」というモノを知っています。当時の日本人の矮小な世界観では「傷つく」様な事にも、また違う「社会の在り方」を見ます。
私は乞食を見ると、必ず施しをします。友人達から注意された事もシバシバですが、いつも私が助言を無視するので、そのうち誰も何も言わなくなりました。友人達の忠告って、「そんな事をしても何の解決にもならない」、「あげてもキリが無い」とか「勤労意欲が育たない」、中には「上のボスに吸い上げられるから、そういう構造を助長するだけ」とか言う凝った見方まで有ります。私は、このいずれの意見にも従いません。私が私の財布から金を出しているのですから、他人の意見なんか気にしません。
勿論、何かの解決になるとも思っていませんし、勤労意欲だって育たない事も分かっています。「上が吸い上げるシステム型の乞食行為」が一部に存在している事も知っています。でも、そんなの関係無い。私のは単なる感情なんですよ。「乞食に小銭をあげる」、そんなのは小難しい理屈で判断する様な事でっしゃろか？。

同じ乞食ではあっても、アル中や身障者、あるいは移民の多い欧米先進国の乞食と違って、発展途上国の乞食は、生きのびる為の、文字通り生存権を賭けた行為です。相対的に恵まれている私が、その人達の人生に僅かの援助をしているだけで、「何の解決にもならない」とか言ったって、その日を生き延びるくらいの役には、たっています。「勤労意欲」とか言う前に、そもそも仕事なんか無いじゃありませんか。「子供に乞食をさせて」とか言う人は、現実が分かっていない。親の収入だけでは生活出来ないから、子供も働いて、家族の収入合算で、ようやく生活（生存）出来ているのです。現在でも、全人類の３～４パーセントは路上生活者なんですよ。人類の半数は1日5百円以下の収入で暮らしています。
敗戦後10年経っても、なお数万人もの浮浪児のいた日本も、私の子供の頃は乞食も浮浪者も、普通の光景でした。戦争などの理由で親に死なれた、あるいはハグレた、捨てられた。国家の機能が壊れている時に、そういう子供達に浮浪児になり、生きる為に集団化する以外の選択肢が、もし有ったなら教えてくださいよ。
日本で1960年頃まで、韓国でも70年代後半までいた靴磨き少年、チューインガムとか新聞売りの子供、あるいは花売り娘。こんなのオトナは別に必要だったから買ってたわけじゃねえぜ。当時はオトナだって、今とは比較にならないほど貧しかったけど、可哀そうだから靴を磨かせ，必要も無い花とかチューインガムを買ってあげてたんですわ。「子供が学校にも行かないで夜に仕事している」なんてバカな事を云うヤツなんて、当時は、いたわけがない。アンデルセンの『マッチ売りの少女』は読んだ事あるでしょう。小理屈を並べて「施し」を与えない人ばかりだったら、そう言う人達は餓死するか犯罪に走るかしか無かったでしょうよ・・・。
イスラム圏では、貧しい人への喜捨が宗教で義務付けられた行為です。仏教だってキリスト教だって、施しは善行でした。私は義務とか善行だと思った事は無いですが、「少しの事しか出来ないけど、イクバクでも助けになれば」という感情ですわ。

かつての虚無僧の様な大道音楽家達は、乞食と同じく、今でも世界中にいます。ただ、欧米で見るのは「ストリートパフォーマンス」であって、切実な生存行為ではありません。貧しい国のは、「哀れみ販売業」の乞食では収入が少ない為に、一応は「芸を売る」建前の、本質は乞食と同様の「施しを受ける商売」です。
初期の虚無僧も全く同じでした。そのうちに集団化して、より効率性の高い産業形態、つまり「ヤクザ屋」に業務変更するのですが、ともかく本来は人の「施し」で生きたのです。
芸術業って、極々稀な人気者以外、95パーセント以上の人は、この「他人の助け無し」には成り立たないのです。有名な歌舞伎役者とか落語家だって、「贔屓筋の旦那衆」有ってです。

私は免状代に合計２百万円は使っています。チケットは３百万円以上買ったでしょう。無償が当たり前の受付とか会場整理役をやった回数なんか数え切れません。
今は時代が違う。だから若い貴方達に同じ事をやれとは言いません。私達の世代はバカでも臆病でも無く、全部分かって免状にも多量のチケット購入にも労働奉仕にも応じたんです。こういう事を「バカバカしい」と嘲るなら、尺八みたいな不人気芸術は成り立たない。そう、だからもう「御稽古邦楽」は終焉期を迎えました。

これが、豊かな時代しか知らない若い人達から、しばしば疑問を提された事に対する、私の答えです。