地無しの進化

あれは確か197６年か、いや７７年だったかも？横山勝也先生が当時住んでいた高円寺のマンションに行くと、夥しい尺八の内径資料が有りました。ゼンオン（全音楽譜出版社）が木製尺八を製作販売するので、その依頼で横山先生と山本邦山先生が設計のための資料担当をする事になったのです。とは言え、超多忙の邦山先生は、ほとんどやっていませんでした。「困っちゃうよ、本当は山本さんと一緒にやるはずがね・・・」と1人でほぼ背負いこんだ律儀な横山先生はブータレていました。
「木製尺八でも、二つとない名器を作る」という志でのぞみ、尺八で性能の良い物を見つけると、片っ端から内径を計っていました。まだ、林鈴麟さんが、尺八の内径計測にダイヤルキャリパーを持ち込む前でしたから、製管師の吉沢秀三さんが、棒の先に丸い金属の球を付けた物で測っていました。「これだと不十分なんだよ。内径が真円なら良いけど、手作りの尺八だとそうじゃないでしょ。縦横どちらでも狭い方しか測れないよね」。もう37年も前に亡くなった吉沢さんの慨嘆です。それでも、マア何とか資料が確定して、ゼンオンが売り出した木製尺八が「虚竹」です。

これが売り出されて、すぐに私は「これは駄目だな」と分かりました。だって定価3万２千円なんですよ。一般卸し７割、業者卸し６割にしたって法外です。他社製品の倍ですからね。「良いとこ５百だな」と踏みましたが、それでも頭打ちまでにアッと言う間に千本いきましたから、これはゼンオンの販売力、横山、山本両御大の信用、あわせて当時の尺八需要の旺盛さなんですね。
すぐに頭を打ったので、何年かしてゼンオンが諦めると、「虚竹」の歌口調整を担当していた田嶋直士さんが、個人的に引き継いで「直簫虚龍」というブランドで継続製作していました。定価は、ほぼ半額の１万８千円です。初めから、これでやれば良いのにねえ・・・。

「虚竹」の様な木製尺八は、楓材にテーパーリーマーという、円錐形のドリルで穴を開けて作るわけです。野球のバットの工法の応用から始まりました。ともかく「虚竹」については、商品としては大きな事にはならなかったのですが、性能は良かったのです。特にリーマーを途中まで入れて作る６寸管の性能は抜群でした。１尺８寸だって、小山菁山先生はじめ名だたるプロ達が絶賛していました。
こういう木製尺八の必要性が有ったのは、当時の木製尺八は、和田楽器さんのは良いとして、目先の利益で作ったところが多く、リーマー１本で２尺３寸（A管ではないの）から１尺４寸まで作る様なナメタマネをする所が有ったくらい、尺八吹きを徹底的にバカにしていました。当然内径設計などもイイカゲンでした。
世は「民謡ブーム」で、とにかく尺八が足らない。竹製は目先の注文の多さに浮かれて価格は棒上りでした。こういう時代相でしたから、性能抜群の木製尺八の存在意義が有ったのです。でも、ゼンオンさんは尺八販売では十分なノウハウが無かったんだと思います、最初の「値決め」で失敗してしまいました。

今ですね、この木製尺八の製作法で「地無し尺八」が作くられています。テーパーリーマーより、はるかに性能の良い「横型旋盤」を使用しています。日本の事ではなく中国です。
日本の竹そっくりで、しかも超肉厚の竹を使います。有るんですよ、５年前にラオスから買ってきた竹材なんか、信じられる？中まで全部が肉なんですぜ。そして横型旋盤を使うと製作途上で割れたりもしません。
もう調律管と同等の性能を持つ「地無し尺八」が出来ています。この必要性を述べると４０年前の尺八と同じになリます。
①　「地無し尺八」の人気が高まっている　②　にもかかわらず、ネプチューンとか山口秋月さんのを除くと、性能は非常に悪い。
③　そのくせに、どう考えてか値段が高い　

何にせよ、おとなり中国は、やる事が速いですね。そのくせに「本道」だの「正統」だの言う人も、今や割合から云ったら日本より多いんだっせ・・・。もっとも、かつての日本人の様に、マジで言ってるかどうかは分かりません。どっちが良いとか悪いとかも分かりません。