腕試し
- 2021/08/10
- 11:29
情報の発達していなかった戦前は、尺八にも「道場破り」みたいな人がいたらしい。「評判がどの程度本当なのか直接自分で確かめよう」ということで、そこで感じ入ると弟子になったりしたらしいのです。私の師匠であった酒井竹保先生の子供の頃まで、そう言う事は割合有ったようです。「音に訊く酒井竹保(初代)先生に一手御所望」という具合です。
30年ほど前に私が師範免状と看板をいただいた時、青木鈴慕先生に「道場破りに看板を取られないように頑張ってください」と冗談で言われましたが、その頃には、そんなオヒトは何処を探したっていやしませんでしたわ」。
こういう直接確かめる人は、私の青年時代でも、世間的にナメられているプロレス相手にはいました。「やってる事は、どうせ芝居。だから大した事ネエだろう」で、頭は弱いが腕っぷしだけは強いニイチャンがプロレスラー相手に喧嘩を売るんです。シラフならともかく、酒場なんかで酔いがまわった状態では、大っぴらにはなりませんが、レスラーがノサレたケースも有るそうです。ヤクザみたいな劇画原作者の梶原一騎と弟の真樹日左夫がキラー・オースチンをフクロにしたのは有名な話です。あの人の書いた空手劇画は誇張だらけでも、本人達の強さはマジだったんですね。
でも、日本では本当に強い人は喧嘩を売りません。やむなく買うケースは有ると思いますが、よくよくの場合です。でも、これがアメリカだと頻繁に有るそうですな。「本当に喧嘩が強いヤツ」も日本とは比較にならないほど多くいますし、また「自信過剰のバカ」も多い。40年前まで、アメリカのプロレスラーが2千人とも3千人とも言われた頃ですと、今の日本と同じくプロレスラーの8割以上は他にも仕事を持っていましたから、素人に喧嘩を売られてノックアウトされたプロレスラーも多いはずです。
勿論プロレスですから、試合の勝ち負けと、「本当に喧嘩になった時の強さ」とは全く別です。私がプロレスの仕事をしていた時代ですと、日本プロレス界最強はサムソン・クツワダ(轡田)ではなかったですかね。桜田の事は本当かどうか知りませんが、80年代ですと「強いと言えばプリンス・トンガ(キング・ハク)だ」と,よく聞きました。「ジャンボ鶴田最強説」が出ますが、それは通常の試合。セメントとか、もう一段進んだ本当の喧嘩は全く別の話です。
ですから前は、アメリカでは本当に強い人でないと世界チャンピオンになれませんでした。インターネットの無かった時代ですし、全国をカバーするマスコミも無いので、昔のアメリカのプロレス界だと、ローカル試合で何が起きても分かりませんでしたが、それでも、飛び入りで腕試しを申し出るバカがいます。日本以外では、ここで引いたら終わり。もう後は何を言っても信用されません。ですから、その為に途方も無い強さを隠し持った用心棒役のレスラーが、ちゃんと用意されていました。
でもプライベートまではカヴァー出来ません。万が一にも世界チャンピオンが素人に喧嘩で負けたら業界全体の信用を揺るがしかねません。それに仕組みの管理が甘かったので、世界チャンピオンは「掟破りの同業者」の脅威に常に晒されていました。ですから実際に強くないと世界チャンピオンは務まらなかったわけです、1970年代までは。
状況の変わった尺八界も段々と人が本音を口にする様になりました。外国人が増えた事も勿論その要因の一つですが、その前に日本人尺八吹きが自分の判断力に自信を持ってきて、プロの演奏の出来不出来、力量の本当のところをハッキリ口に出して述べるのが普通になってきましたな。前は技術的に大学尺八部の最上レベルの吹き手に及ばない有名尺八家もいましたし、本番演奏でマズるという、他の音楽畑なら「金返せ」と言われかねない人もいましたが、プロ尺八家の評価を本音で言うのは大学クラブの連中だけでした。当時は少なかった外国人(90%以上アメリカ人)だって、すくなくとも日本ではワキマエテイマシタ・・・。もうネプチューン、ライリー・リーみたいな日本のトッププロに匹敵する人も出ていましたが、それでも彼らから日本の1流尺八家のマイナス評価を直接聞くことは、あまり(全くでは無く)有りませんでした。だって、ヤツラは利口だし紳士ですもんね。母国や親しい仲間との会話ならトモカク、ここ日本で無用の事は口走りませんや。でも、それと同時に、「言っても無駄、日本の尺八界の人に言っても分からない」という一種の突き放しが有った様に思います。
確かにナア。大半の人は不出来な演奏でも知名度で感服してましたし、分かる人は、学生以外は不満を心に仕舞い込んで口をつぐんでいましたもの・・・。
今は展示会等で客と会話すると、皆が凄く分かってきていると愕然とします。ですから「本当は下手なのに有名なプロ」が少なく(いなく、ではない)なったのです。それと同時に、上手な素人が何と多くなった事でしょう。ですから、プロは素人の「腕試し」に再び会うことになると思います。素人の腕自慢のやった事の上を、ハッキリ分かる水準でやってみせないと、今度は「オトコを下げる」だけじゃ済みませんぜ。ネットでボロクソに言われる・・・。
尺八は、また一つステージが上がりました。もう恥ずかしい世界では無い。
30年ほど前に私が師範免状と看板をいただいた時、青木鈴慕先生に「道場破りに看板を取られないように頑張ってください」と冗談で言われましたが、その頃には、そんなオヒトは何処を探したっていやしませんでしたわ」。
こういう直接確かめる人は、私の青年時代でも、世間的にナメられているプロレス相手にはいました。「やってる事は、どうせ芝居。だから大した事ネエだろう」で、頭は弱いが腕っぷしだけは強いニイチャンがプロレスラー相手に喧嘩を売るんです。シラフならともかく、酒場なんかで酔いがまわった状態では、大っぴらにはなりませんが、レスラーがノサレたケースも有るそうです。ヤクザみたいな劇画原作者の梶原一騎と弟の真樹日左夫がキラー・オースチンをフクロにしたのは有名な話です。あの人の書いた空手劇画は誇張だらけでも、本人達の強さはマジだったんですね。
でも、日本では本当に強い人は喧嘩を売りません。やむなく買うケースは有ると思いますが、よくよくの場合です。でも、これがアメリカだと頻繁に有るそうですな。「本当に喧嘩が強いヤツ」も日本とは比較にならないほど多くいますし、また「自信過剰のバカ」も多い。40年前まで、アメリカのプロレスラーが2千人とも3千人とも言われた頃ですと、今の日本と同じくプロレスラーの8割以上は他にも仕事を持っていましたから、素人に喧嘩を売られてノックアウトされたプロレスラーも多いはずです。
勿論プロレスですから、試合の勝ち負けと、「本当に喧嘩になった時の強さ」とは全く別です。私がプロレスの仕事をしていた時代ですと、日本プロレス界最強はサムソン・クツワダ(轡田)ではなかったですかね。桜田の事は本当かどうか知りませんが、80年代ですと「強いと言えばプリンス・トンガ(キング・ハク)だ」と,よく聞きました。「ジャンボ鶴田最強説」が出ますが、それは通常の試合。セメントとか、もう一段進んだ本当の喧嘩は全く別の話です。
ですから前は、アメリカでは本当に強い人でないと世界チャンピオンになれませんでした。インターネットの無かった時代ですし、全国をカバーするマスコミも無いので、昔のアメリカのプロレス界だと、ローカル試合で何が起きても分かりませんでしたが、それでも、飛び入りで腕試しを申し出るバカがいます。日本以外では、ここで引いたら終わり。もう後は何を言っても信用されません。ですから、その為に途方も無い強さを隠し持った用心棒役のレスラーが、ちゃんと用意されていました。
でもプライベートまではカヴァー出来ません。万が一にも世界チャンピオンが素人に喧嘩で負けたら業界全体の信用を揺るがしかねません。それに仕組みの管理が甘かったので、世界チャンピオンは「掟破りの同業者」の脅威に常に晒されていました。ですから実際に強くないと世界チャンピオンは務まらなかったわけです、1970年代までは。
状況の変わった尺八界も段々と人が本音を口にする様になりました。外国人が増えた事も勿論その要因の一つですが、その前に日本人尺八吹きが自分の判断力に自信を持ってきて、プロの演奏の出来不出来、力量の本当のところをハッキリ口に出して述べるのが普通になってきましたな。前は技術的に大学尺八部の最上レベルの吹き手に及ばない有名尺八家もいましたし、本番演奏でマズるという、他の音楽畑なら「金返せ」と言われかねない人もいましたが、プロ尺八家の評価を本音で言うのは大学クラブの連中だけでした。当時は少なかった外国人(90%以上アメリカ人)だって、すくなくとも日本ではワキマエテイマシタ・・・。もうネプチューン、ライリー・リーみたいな日本のトッププロに匹敵する人も出ていましたが、それでも彼らから日本の1流尺八家のマイナス評価を直接聞くことは、あまり(全くでは無く)有りませんでした。だって、ヤツラは利口だし紳士ですもんね。母国や親しい仲間との会話ならトモカク、ここ日本で無用の事は口走りませんや。でも、それと同時に、「言っても無駄、日本の尺八界の人に言っても分からない」という一種の突き放しが有った様に思います。
確かにナア。大半の人は不出来な演奏でも知名度で感服してましたし、分かる人は、学生以外は不満を心に仕舞い込んで口をつぐんでいましたもの・・・。
今は展示会等で客と会話すると、皆が凄く分かってきていると愕然とします。ですから「本当は下手なのに有名なプロ」が少なく(いなく、ではない)なったのです。それと同時に、上手な素人が何と多くなった事でしょう。ですから、プロは素人の「腕試し」に再び会うことになると思います。素人の腕自慢のやった事の上を、ハッキリ分かる水準でやってみせないと、今度は「オトコを下げる」だけじゃ済みませんぜ。ネットでボロクソに言われる・・・。
尺八は、また一つステージが上がりました。もう恥ずかしい世界では無い。
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