ホテル

私は仕事がら1年のうち50日は旅暮らしです。そのうち3０日以上が展示会で、今は原則として宿泊は東横インです。チエーン店は作りが一緒なので、１３年前に体が不自由になってからは、慣れたホテルでないと夜に起きた時など危ないですからね。
部屋は余程の事情が無ければシングルです。この年になると家内がいない時は独りで楽しみたいですよ。な、なんじゃと、「アダルトビデオを見るんだろう」だと。バ、バカ野郎、どうしてそういう汚らわしい事しか思いつかないんだ、まったく。同じ尺八界にいる者として恥ずかしい。ヤクザ映画だよ。家内に「教育に悪いから」という理由で、家では禁止されているヤクザ映画を鑑賞するんだよ、オレ、これといって他に趣味はネエもんな・・・。

私は小学校の頃から祖父や親に連れられて旅行していましたが、泊まったのは毎度、日本旅館でした。当時の日本にはホテル、それも外国人も泊まれる様な本格的ホテルは大都市にしか無かったものです。初めて、そのホテルというモノの部屋にまで入ったのは1968年2月、1７の時です。当時から外人プロレスラーを宿泊先のホテルに訪ねていましたが、面会は、、いつもホテルのロビーです。その時は世界的タッグチームのカンガルースがTBSプロレス（国際プロレス）に来てまして、仲良くなったリーダーのアル・コステロを四谷のダイヤモンドホテルに訪ねたんです。だけど約束したのに、彼はいなかったのですよ。当時、TBSテレビと契約をめぐってトラブルになって、外国人レスラーは全員が出場ボイコット中。それは知っていたからこそホテルに訪ねたんですが、後で訊くとグレート東郷に連れられて抗議の為、急にTBSプロレスの会場に行ってたんです。
約束していたのでホテルのロビーで3時間くらい待ちましたかね。帰ってきたコステロが済まながって部屋に入れてくれたんです。ツインで相棒のドン・ケントと相部屋でした。まだビジネスホテルが無い時代で、外人でも2人1部屋でしたな。フレッド・カーリーとブルドッグ・ブラワーも相部屋。ダニー・ホッジだけが特別待遇でヒルトンホテルでしたよ。試合の後タクシーでホテルまで送った事が有るので間違いありません。多分、アメリカでのギャラで言ったらコステロとブラワーはホッジより上でしたぜ。日本では神様扱いのホッジですが、アメリカでの評価は意外に低くて年収2万ドル（720万円）くらい、3万ドルは稼いでいなかったはずです。だって、その1年前に週給５百ドルで日本に来てましたもの。日本人の大学出で初年度の年収が50万円くらいの時代ですけどね・・・。
まあ、それはともかくダイヤモンドホテルの部屋が思っていたより狭く、質素だったことが印象に残っています。コステロとケントは本当は3月いっぱいまでの契約でしたが、それは無効、もうアメリカに帰るとの事で、余ったグッズとか大量に貰いましたよ。このブログの読者はプロレスファンも多いので、この時にもらったグッズ、まだ余ってるから連絡をくれれば差し上げます。そうそう、もう無いけど、今有ったら凄いオタカラも有りました。幻に終わった「TBSプロレス3月シリーズ」のポスターです。エースはエドワード・カーペンティア、カンガルースの2人と覆面コンビのエクスキューショナーズ（ジョー・トマソと多分ガイ・ミッチェル）、今ならテレビの「お宝鑑定団」に出られまっせ・・・。プロレスファンの為の記述はここまで、ホテルに話を戻します。

私は15年前くらいは、展示会には出来るだけ安いホテルを探していまして、スタッフ達から嫌がられていました。別に予算を惜しんでではなく、言ってみれば「限界探索」です。面白いじゃありませんか。いくら安いって言っても部屋にバス、トイレが付いている事が前提です。そして一度淡路島で間違えて泊まってしまった俗に云う「連れ込みホテル」は駄目。駅から徒歩10分以内。この条件では最安が下関のビジネスホテルで3千8百円。朝食が付いていたから泣かせるじゃないですか。４千円台前半だったら少しの苦労で探せました。そのてのホテルは長期滞在者が多くいましたが、仕事とか外国人であり、まだ日本では老人や独り者が「アパート代わりに住む」とはいかないみたいです。４千円だとしても１月なら１２万円ですものね。
私が40年前に入っていたファンクラブのハンガリー人ピアニストは、ロスアンゼルスのクラークホテルに奥さんと住んでいましたが、ここはプロレスラー御用達ホテルでもあって、１９７０年代初めの1ドル3百円時代でも１泊４ドルでしたから、年金暮らしの老人でも住めたわけですな。
日本最低料金の宿泊施設ですと、横浜の寿町や山谷、釜ヶ崎のドヤ街には1泊５百円が有るそうです。それでも昔の「ドヤ」ではなく、風呂、トイレは共有ですが、部屋は綺麗で外人バッグパッカーなんかも利用しているそうです。でも住めませんよ。人間には見栄ってもんが有る。でも、どうだ、林嵐山、高橋照誠山。お前らと連絡がとれなくなったら、オレここを探すよ。そう遠い将来でもないだろう・・・。

商社員などの「旅暮らしの人」ほどでは無いですが、私もこれまでホテルには随分泊まっています。おそらくは2千泊くらいかと思います。それで思うのですが、ここくらい潰れている所が多い業界も稀ですよ。東横インが無い街で、前に泊まったホテルに電話すると、かなりの確率で無くなってたり経営母体が変わっていたりします。そして急速に「チエーン化」が進んでいる事が居酒屋とかアパレル業界と同じです。
「他山の石」でなく、尺八の人も考えた方が良い。生き残る為の条件はホテルと全く同じで以下の如し
①　高いけど何処から見ても1流。
②　客が不思議がる安値。それでいて、「どうしてやれるの？」と客に思わせるグレードの提供。
③　価格に納得がいく。「絶対に必要。無ければ困る」と客が思っている。
この3点だけなのです。「他に知らないから」とか、客と親友みたいな関係になり、「何処が有ったってオレはここ」でやれたのは、ホテルも尺八も昔の話、客に金銭的余裕が有って、なおかつシビアな競争の無かった時代です。もう家電販売とか保険や自動車のセールスだってそうですぜ。尺八製作の場合、①②③のいずれにも当てはまらない製管業者が、まず７割ですな。だからハッキリ言う。この先15年たったら今いる製管師の３割しか生き残っていない。
良いですかな、もう多くの人は畳の日本旅館でなくてホテルを快適だと選んだんですよ。「畳が日本の伝統だ」と言ったところで、それが何になりますかい？。でも新築の家でも一部屋くらいは日本間でしょう。そう日本人だもの。だから邦楽も尺八も現代日本文化の一部なの、でも一部でしかないの。ですから、せめて見捨てられない様、努力しましょうよ。日本旅館を駆逐したホテルだって、生き残りを賭けて日々努力をしてるんですから。