もう40年以上前になりますが、何回目かのアメリカ旅行の時、初めてアメリカのバーに入りました。大衆食堂やレストランと違って、知らないバーのドアを開けるのは、日本でも少し気後れがあるものです。ましてアメリカです。ボッタクリに合うのが心配?。そりゃあ日本での話だわ。オレ日本人だし、それに美男子だし、酔っ払いに何か因縁をふっかけられて、面倒な事にならないか、そういう漠然とした不安が有るということです。韓国や台湾と違って、アメリカでは一人旅の経験はないですから、その時も死んだ後輩、カメラ屋の後藤と一緒でした。でもねえ後藤って、もし喧嘩になったらカラッキシ頼りになりませんぜ。私と同じく、ヤバイとなったら平気で仲間を見捨てて逃げるヤツです。
でもまあ何事も経験ですわ。プロレスラーでも度々喧嘩を売られるアメリカのバーですが、よっぽど柄の悪い処でも無けりゃ、そう心配する事も無いでしょうよ。
そのバーでの注文ですが、私はケンタッキーバーボンのIWハーパーを頼みました。実は、それまでケンタッキーバーボンって飲んだ事が無かったんです。今でこそ私の住んでいる田舎町でも、ワイルドターキー、ジム・ビーム、アーリータイムズはスーパーで売ってますが、その時代は東京でも売っている店はナカナカ見つからなかったものです。私が唯一知っていた銘柄がIWハーパーだったから、それを注文しただけの事ですわ。ハーパーの発音がちょっと難しくて、最初通じませんでした。
ケンタッキーバーボンは御存知の通り材料はトウモロコシです。何事によらず、洋物は「情報先行」で有難がっていたのが40年以前の日本人でした。だからでしょうか、「洋酒通」からは、一段低く見られていました。私はコダワリが無いと言うより、余計な事には興味がないですから、基本的に何でも良いのです。好みに合わなかったら、次からは頼まなければ良いんですって。当時はまだ、人の言葉を聞きとがめて、「ジャック・ダニエルはテネシーウイスキーでバーボンとは言わない」とかの半端知識を振り回す人がいた時代です。今だと、まだ「ワイン通」にはいそうですね。
ほんの20年前でも「発泡酒はマズイ。あれはビールじゃない」とか言う人が日本にいましたが、蘊蓄を楽しむのは文化の重要な要素ですが、しょせんは共同幻想の構築という面が有りますから、根本として「文化には客観評価が成り立ちにくい」の認識を前提としないとね。分かるなら分かるなりに、分からなくても好みは自分で決めれば良いじゃないですか・・・。
ところで、ケンタッキーバーボンとか発泡酒、私が好きな「のどごし生(第三のビール)」はマガイモノですか?。作る側は「違う材料を工夫してヒトを唸らせる美味な味を作ろう」と思って製造していて、飲む側も美味いと思うから飲むんであって、それ「ホンモノ、ニセモノ」って話じゃないと思うんですよ。強いてレッテルを貼るなら「あれも別の材質で作ったホンモノ」です。
これからが本題です。昨日、津軽三味線の大スターであるTさんが、仕事で地方に行くついでに、尺八を買うために立寄られました。彼とは20年来の御付き合いで、昨日も2時間ほどアレコレ話しました。そこで驚くべき話を聞きました。
彼はもう何年も前から津軽三味線の皮にビニール皮を使用してるんだそうです。ビニール皮は、もう30数年前から有りますし、当時も、それを三味線の専門家と言えども聞き分けられるか?、そういう実験が行われました。実験の結果をあまり大々的に公表しなかったのは、「分からない」が結果だったからです。でも、「聞いている分には分からないかもしれないが、弾いている本人には微妙な違いが判る」という演奏者の言い分を何となく受け入れました。弾く側の微妙な違いはTさんも認めていますが、「それは工夫と慣れで何とかなる。それより、破れない、湿度の高さに左右されない、地方公演の際も替えの三味線を持って行かなくて済む。そういうメリットを考えたらビニールの優位は明らか」だそうです。その前に、「もう日本では猫皮が無いじゃないですか。まだ少し有りますが、今有る猫皮って品質が良くないです。特に自分には厚すぎる」との意見でした。
私も言いました。「現在、海外市場を持っていない尺八製作家で生活が成り立っている所は有りません。和楽器では、和太鼓と並んで三味線と尺八は世界普及の可能性が有ります。でも、三味線が犬や猫の皮を使う限り絶対に海外市場を作れない。高い、すぐ破れる、張り替えは海外では出来ない、そういう諸々の欠点の前に、動物の皮を使う事というが、どれだけ海外で深刻な悪感情を引き起こしているのかについて、日本の三味線業者は知らんぷりをしすぎる。三味線が世界普及を果たす為には、絶対に動物の皮との決別が必要です」。
そして、「Tさん、貴方みたいな大きな影響力を持つ人が。もうビニールを使うべきだ、そう言わないと」。
Tさんも雑誌に寄稿したりインタビューを受けた際に、何度か言いかけた事が有るそうですが、決まって報道媒体からストップがかかったそうです。分かりますよ、だって三味線屋は皮の張り替えで生活してるんですもの。これはこれで深刻です。
尺八も3Ⅾ尺八が凄い勢いで売れています。その前はプラスチック尺八の悠が、私を除外した全プロ製管師の竹製尺八の販売量を上回る数を売っていました。3Ⅾ、メタルなどの異素材尺八で、竹の尺八を作っていた製管師が多大なマイナス影響を被った事は間違いないでしょう。製管師は原理的に倒産が無いですが、生活出来なくなった人が多数出ました。
でもね、その代わりに海外市場が出来ました。尺八が世界に羽ばたく可能性を創り出せました。だって材質の異なる尺八は性能抜群で、その上に安い。まぎれもなく、これもホンモノですもの。三味線だって同じです。このままなら遠からず全部が駄目になるのです。控えめに言っても、今の何分の一かの市場規模になる事は確実でしょう。ですから二つの道が有ると思うのです。今のままで全体が衰退して行く方を採るか、どんなに困った人が出ても改革の道を選ぶか。
会社が小さく、また組合も無いし必要ともしない尺八の場合は簡単ですよね、勝手に自分が道を選べば良いのですから。
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