御注意を

「中古市場に呂童管が出ているけど」とスタッフに言われました。「前にも8千円で出ていたけど入札ゼロで流れ、今度は7千円で、また出ている。」と言う事です。水野呂童は三浦琴童の弟子で、その製作した尺八は30年前、まだ「古管オタク」が大勢いた頃だと大したものでした。でも、今だと20万円が付けば上々、中には「そんなに高い。そりゃ何かの間違いだ。おおかた事情を知らない素人が複数いて競ったんだろう」と言う人もいるでしょう。師匠の琴童に比べて、すっかり人気も知名度も無くなりました。品質って点では遜色無い（良いと言う意味ではありませんよ）のですがねえ・・・。
でも所謂「腐っても鯛」、まさか7千円、8千円でも買う人がいないと言う事は無いです。そこで確認してみると、焼き印の写真が有りました。で分かりましたよ。呂童でなく、民謡でよく見る昌斎でした。それなら相場は3千円から8千円ですから、８千円での入札無は、まずまず順当です。良かったですよ、買う人がいなくて・・・。

この売り手が「騙して」でないことは理解出来ます。「騙してニセモノを売る目的」であれば、焼き印の写真なんか載せませんよ。知らなくて、周りの誰かから「呂童だろう」と言われて市場に出したんでしょう。骨董品によく有るパターンです。
呂童は今日だと、その名を知る人は尺八を吹く人のセイゼイ1割か2割ですかね。都山の人だと30年前でさえ、そのくらいだったと思います。でも琴古が多い欧米や中国では事情が異なります。しかも欧米だと焼き印の「崩し漢字」の判読は困難になります。しかも、しかもです、相手は日本人の様に優しくありません。「すみません。私も分からなかったんです」で通らないケースが多いと思います。

日本だと何によらず、ニセモノを売っても「自分も知らなかった」が証明できれば罪にはなりません。その前に、余程の高額でなければ裁判沙汰になったりしないでしょう。でも、これがアメリカ人の悪いヤツが買ったとしましょう。もちろん全て承知の上でです。「呂童を欲しいと言う人に1万ドルで転売した。焼き印が容易には読めない崩し字だったので、外国人の自分は信用するしかなかった。でも後から転売先から賠償請求をされた。自分も著しく信用を無くした。損害賠償金として5万ドルはらえ」。こう訴えられたらどうします。勝てないでしょうね。真贋判定の困難な美術品では無し、この場合は焼き印が決め手となります。「焼き印が有った。だから呂童でない事を承知で、崩し字の読めないアメリカ人を騙して売った」と主張されて負け。ですから賠償金の減額を交渉するしかないでしょう。
こういう懸念は、私がアメリカ市場に出る準備をしていた時に、「アメリカにおける訴訟コンサルタント」だったSさん（横山勝也先生の1年後輩）からサンザン言われた事です。

もう今の時点で竹製尺八の総需要は、国内より海外の方が多いかも知れません。ですから、こういった点を良く注意なさった方が良いと思います。中古尺八と限定すれば、古管の高額品のほとんどは海外に行くのです。私が、もっと人が悪ければ外国の「訴訟屋」と組んで、こういった日本人をカモにしてますよ。あんまり海外市場を甘く見ない方が良い。
これ、常日頃から「尺八のプロになろうと考えるなら、諸事ものごとを甘く見れない人は止めた方が良い」と言ってるオレが言うんだぜ・・・。