復活

昨夜帰宅しました。1週間の東北ツアーでしたが、こんなに客が入らなかった事って初めてです。初日の新潟が最低の5人、後は軒並み8，9人で10人の来客が有った会場は１つもありません。何でかね？。コロナの恐怖宣伝から解放されて、観光地は何処もスゴイ人出だちゅうのに、このざまは無いよね。今回5会場の合計来客数は、20年前だと大都市だったら1日で達成しました。なるほど尺八の現況はヒドイ。
これでも黒字だった事は邦星堂、いや大橋鯛山の底力以外の何物でも有りませんな。エライ、凄い。オレがもうちょっと利口だったら、「お客様のお陰」とか言うんだろうけど、謙虚と謙譲は違うの。謙譲って美徳じゃないのよ。

たとえ赤字を出そうと展示会はやめられない。今回みたいに客が少ないと、御客とじっくり話し込めます。これが現状の把握、さらには将来指針になります。これをやってきたからこそ、私はこれまで経営に失敗しなかった。でも私も７２です。段々と長いツアーは厳しくなってきました。肉の脂身やニンニクの大量摂取くらいじゃ身が持ちませんな。冗談だと受けとる人も多いけど、私も年のせいで体が脂肪分を欲していて、焼肉でも若い頃は何でも一通り食べましたが、今はカルビ、白コロホルモン専門です。これが苦手になった時が、まあ引退でしょうな。

今回の最高齢者は新潟会場にいらっしゃった94歳の人。終戦直後から尺八をやっていて、終戦時の事も良く憶えていました。77年前の敗戦は、日本史上最大、最悪の出来事でしたが、でも振り返ってみれば、それが有ったればこそ、その後の大繁栄を迎えたわけです。歴史を「後追い結果論」で論じる事は禁止事項なのですが、もしも敗戦が無かったらと考えると、天皇制も財閥も大土地所有も温存され、何より軍部が解体されなかったのですから、今に至る自由な繫栄した社会の到来が有ったとしても、もっとズット後だったでしょう。一部に戦前の社会を懐かしむ人がいるにせよ、日本人の圧倒的多数の人は、今の社会を戦前より「はるかに良い社会」と認めています。
今回の94才の人をはじめ、年配の人は誰もが口を揃えて、かつての尺八界の繁栄ぶりを言います。私も尺八と出会って今年で53年で、その「繫栄していた」とか言う尺八界を少なからず知っています。繁栄が人の多さを言うのなら、なるほど前は「繁栄」だったでしょう。でも決して、そこに戻ってはいけない世界だったと思います。そんなのが時代に合わないからこそ、ここまで落ちぶれたわけで、そのままの尺八界なら今頃は有ったかどうか分かりませんし、「復活の芽」なんて、何処を探しても見つかりませんでしたぜ。

もう尺八界の先行きはハッキリ見えています。かつて製管業界を潤した古典系社中も民謡界も、すっかりダメになって再起も無いでしょう。これからのチャレンジは復活です。外国は置いといて、ここ日本で尺八を復活させなくては、外国の尺八界に対してミットモナイし、何より尺八に携わる人達の生活を満足させられないでしょう。「金や生活より伝統文化の在り方の方が重要だ」とマジでおっしゃる御方はマサカいないとは思いますが、彼にいたとしても、新しい世界を切り開いた人は、何時の時代も、そういう人達ではありません。
もう段々と明らかになってきましたね。今まだ復活の道は二つしか見えていません。まず「シルバー産業」に舵を切る事。気楽なカルチャー講座で、リタイア後の人達の「老後の楽しみ」や「仲間作り」の場を提供することです。
二つ目はネットビジネスへの移行。平均年齢が73才を越えたと思われる尺八界だと、たぶん半分近い人がパソコンに触っていません。でも、それでもなお半数、1万人以上の尺八吹きにはインターネットは有効なのです。ただ、それも後続が続かなければ、それまでです。でも、シルバー層を大きくすれば、必然的にネット人口も増えます。だって、今の70歳以下の人だと、たいがいパソコンは使っていますよ。もう10年もすれば尺八界でも、インターネットをやっていない人はいなくなるでしょう。
最近プロの間でようやく盛んになってきたスカイプ等を使った「テレワーク講習」。まだ課題は多いですね。衛星経由ですので時間差が有り合奏は出来ません。でも、どんな事でも初めはそうですよ。世の中を進歩させてきた人達って、「無理だ」と言った人達なんか無視して、「何とかやってみよう」と工夫した人達です。例外なんて有りません。
ハチ鳥っていますな。鳥類の中で唯一、空中で静止出来るんです。この能力には科学者も首を捻ります。どうして出来たのか？。答えは簡単ですよ、誰も「そんな事は不可能だ」と言わなかったからです。

普通の尺八吹きは、かつての「尺八界の繁栄」を懐かしめば済むさ。けど俺達にとっちゃ飯のタネ。復活が無ければ生活手段もネエんだよ。
キリストの「復活」は旧時代の「人間の原罪」を我が身に引き受けて、新しい契約に基ずく新らたな世界をひらいたそうですな（信じる信じないは別として）、若い時に読んだトルストイの『復活』では、娼婦に身を落とした殺人犯カチューシャの為に、ネフリュードフは真の人間性への復活を果たした（何の事かさっぱり分んなかったけど）という話です。
同じことでしょうよ。良い悪い関係無く、前の尺八の在り方が今の状況に合っていないからこそ、此処までの事態を招いた。ですから、組織の呪縛を脱した個人の人間性が尺八と向き合う、「新約の時代」に入ったんです。

正念場は「御話し」ではない現実の尺八界の復活です。今生きているオレ達がやらないで、いったい誰がやる・・・。