地球に生物が発生して以来、数限りない環境変化が起こりました。2度にわたる地球全体の凍結、5回あったと言われる生物大量絶滅。こういう大きな試練以外にも中小の災厄は常に有ったはずです。それに耐えて生き残った種が存在した事は不思議ですが、これは個々の人間存在と同じく、結果から見た「途方も無い幸運の連続」ですから、「この次」は全く保証されていません。絶滅の危機は常に有り、尺八では国際的に広がった現在でも、なお消滅の可能性は大いにあります。でも同時に発展の可能性も常に存在しており、人間は、環境の変化に、偶然ではなく自分の意思で対応できる唯一の存在でもあります。
明治の初めに虚無僧寺が制度として廃止されましたが、これは尺八と言いうモノの存続としては、むしろプラスに働きました。何故ならば、この時代には、かなり尺八は民間に広まっていましたし、托鉢そのものは禁止されたわけではないので、「旅芸人登録」で営業は続行できました。ですから寺を出た虚無僧達は生活の為に民間に出て行くしかなかったのです。
そして次の段階。「教授産業としての尺八業の仕組み」を確立したのが中尾都山です。都山がいたればこそ、その後100年に渡って尺八家は、その恩恵を受けました。周囲の人に細々と尺八を教える「尺八教習業」を、産業の段階にまでシステム化したのが中尾都山です。
都山が身を起こした明治末から大正期は社会発展が著しかった。中でも都山は電灯と鉄道、郵便に着目しました。
① 電灯は、日露戦争の時でも、県庁所在地ですら完全網羅出来ていなかった。それが大正の初めに、ほぼ全面普及しました。これは日本人の生活時間帯が大きく夜にズレ込む事を意味します。その結果、夜に稽古の時間帯をシフト出来る。それで夜しか時間の無い給与生活者を顧客に出来ます。また、この時代は労働者の所得が急激に上がった時代です。
② 鉄道はじめ交通アクセスが発達してきたので、歩いたら1日かかる距離からも稽古に通う人を求められる様になった。
③ 譜面が電灯のお陰で使用できる。それで稽古ソフトの一元管理が出来る。
④ 大正14年から始まったラジオ放送を利用した。
こういった社会変化は尺八界では中尾都山だけガ気付いていた分けではありません。でも、これを最大限に有効利用する仕組みを編み出したのは都山です。都山によって「尺八の稽古」は、それまでの歩いて行ける範囲を対象にした家庭教師または寺子屋教育からシステムで動く全国的な塾チェーンに変貌しました。都山の卓抜な点は、末端の弟子から集めた免状代を取り立て師匠、さらに親師匠に還元(分け前の分配)する仕組みを取り入れた事です。今に残る6(師匠)、3(本部)、1(取り立て師匠の師匠)の原型は、昔の師匠の聞き取りですが、かなり早い時期にに出来ていました。こういう利益分配が有ればこその塾チェーン経営です。
自分の弟子が何処に行って稽古場を開いても、このシステムが作動する限りは自分にも利益供与が有るんですから、忠誠心も湧こうというものです。ですから、尺八と言う、世間を知ってる社会人男性を中心顧客層に据えなければならない難しい教授産業を成功に導けたのです。
今の時代は、その教授を経済の中心に据えた尺八界が崩壊した「戦後」です。製管師もプロ奏者も全く仕事が無くなりました。冗談抜きに言いますが、一流にランクされる尺八奏者が宅急便やコンビニ、ファミレスでアルバイトしたり、プロ 製管師が「去年はゼロだった」と泣きを入れるのは「従来の尺八市場」が完全に崩壊したからです。「コロナの3年間」を言う人が多いですが、分かっていない。コロナは崩壊を数年早めただけで、結局は市場崩壊は避けられませんでした。その程度の理解力だから今の段階を迎えたのです。35年前から警告していましたが、現実となった今、急に相談が増えました。
「海外販売をするにはどうすれば良いか?」、私の答え。「貴方には無理です」。それだけの商品力と交渉力が有れば、今頃私に相談したりしません。
「ネットオークションはどうだろう?」、私の答え、「怒らないで聞いてください。貴方(個人名は伏す)の尺八だと販売価格は8千円から1万5千円くらいです。それで良いのなら売れますよ」、人気や技量と関係無く高額で売れたのは教授産業の一端だからこそです。尺八に教授産業はもう無い。冷静に考えたら、20万円の尺八なんて一部の卓越した人しか作れない事が分るはずです。B、Ⅽ級の技術の人が専業者でいられたのは、偏に「尺八に、そういう環境が良かった時代が有ったから」としか言えません。
「価格を下げれば売れますか?」。私、「貴方の尺八が中古で幾らで売れてるか知ってますよね?。エッ、知らない。驚いたなあ」、そういう姿勢なら、もう無理です。諦めた方が良い。価格を半分以下にして、珠の副収入と考えるしかないでしょう。
「じゃあ、どうすれば良いのでしょう?」。私の答え、「時代は戻りません。(特定人名は伏す)貴方は、もう製管を珠に入るアルバイト収入と考えて、他に収入の道を見つけた方が良いと思います」。今はネットで全て丸見えです。貴方の「Ⅽ級技量尺八」を外からの評価を遮断して、「A級」と弟子に言って売ってくれた「師匠の防壁」はもう無い。8千円だろうと1万円だろうと、自由な市場では自己評価が何ら意味を持たない以上、それが市場の出した答えなら受け入れるしか無いのと違いますか。
こんなところです。「冷たい」と思う?。親切心が無ければ弁チャラを言って無責任に励ましていますよ。「頑張れ」なんて言っても事態を悪くするだけです。私が思うには、今後の10年を専業製管師として過ごせるのは8軒か9軒です。
では、本当にどうすれば良いか?。都山が「尺八のシステム教授」を考えた時代と今の時代とは似ていませんか?。AĪの発達、航空券の安さ、情報の自由化、流派の崩壊。ここに大きなチャンスが有るはずです。
生存環境が根本から変わったのです。ならネットの活用と外国語(中、英、独、仏、西のいずれか)を習得して海外を市場にするしか無いじゃないですか?。それが無理だと思うなら、周囲を対象にして地道にカルチャー活動をする。これだってネット作業は必須ですが、何とか専業化出来ている若い尺八家が10人位いますよ。繰り返しますが、新しい産業形態の中に生きる道を見出すしかないのです。
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