トルコ

もうこれだけ尺八が世界に広まると、何処で誰がやってるかなんて分りませんや。ましてコロナの3年間は海外に行けなかったので、大勢の現地の人と話して、生の情報を採る機会も無くなり、海外の尺八事情に関しては、今の私は浦島太郎状態です。
貿易会社を通さない海外の友人からの直接注文は先月はイギリスとフランスから1本ずつでした。毎日のように商談メールが入った４年前と比べったって仕方が無いですけどね、それにしても少ないなあ。
私にとって中東とアフリカは尺八空白区です。この両地域で、これまでに売れた尺八はヨルダンの1本だけ。でも10年くらい前からトルコにも尺八吹きがいるとは聞いていました。柿堺さんが「ヨーロッパで教えて、最後にギリシア、トルコに寄ってくる」と言っていましたから。今回トルコから話が来て、正直驚いています。

トルコは非常な「親日国」だそうですが、日本のイメージが悪かった6，70年前でもヨーロッパ地区では、同盟国だったドイツ、イタリアよりもフィンランドとトルコは「日本びいき」だった様です。
ヨーロッパの人達にとって国家安全上の脅威と言えば20世紀後半はソ連、前半はドイツでしたが、その前は長くトルコでした。16、１７世紀のオスマン朝の全盛時にはアジア、アフリカ、ヨーロッパの3大陸にまたがる大帝国で無類の戦争上手。、17世紀前半だと当時の世界最強国家の日本すら、あるいは勝てなかったかも知れません。ヨーロッパ諸国連合がオーストリアのウイーンでトルコの北上を食い止めなかったら、今日のヨーロッパの地図は、かなり変わったものになっていたでしょう。文化面でもビザンツ、ヨーロッパ、イスラムという三つの大文化圏の「良いとこどり」で、料理、工芸、建築、芸術などは洗練度と言いバリエーションの多さと言い世界最高水準です。
トルコ人は蒙古高原から中央アジアの広い地域に広がっていた民族ですが、トルコ人の一部は西に移動して、いつの間にか、トルコと言えばアナトリア半島をイメージするようになってしまいました。居住域の大きさでは中国人、アングロサクソンと並んで最大です。チンギス汗が蒙古を統一した時点でも蒙古にいた人達の半分がトルコ人だったそうですが、これほど世界に広がっているだけに、トルコ人と交戦経験の無い民族の方が少ないそうです。日本も元寇と第一次世界大戦で矛を交えています。

私はトルコに行った事が無く、直接会話したトルコ人は2人だけです。１人は昭和30年代40年代に大人気だったタレントのロイ・ジェームス。私が８，９歳の頃、渋谷の道玄坂を祖父と歩いていた時、ミーハーで有名人大好き人間の祖父が、面識も無いのに厚かましく呼び止めて、しばらく話していました。私も話しましたが内容は憶えていません。ただ彼が私の頭を撫でて、「子供は良い」と言った事だけ憶えています。もう１人は、思い出したくもない、プロレスのユスフ・トルコです。アイツ、人をいつも小馬鹿にしやがって・・・。1969年の3月でしたが、顔見知りだったネルソン・ロイヤルというレスラーが私に用事が有って、東京体育館の外人レスラー用の控室に彼を通訳として引っ張って来たんです。試合を見たいのに時間を取られて、終わったら「手間をかけた。これ取っときな」と私に20円払ったんですぜ。誰が受け取るか、今思い出しても腹が立つ。

トルコは今では観光旅行で人気が有りますが、それは1980年代に入ってです。その前は「トルコに行く」と言うと、誰もが海外旅行を連想せず下卑た薄笑いを浮かべました。「トルコ風呂」の始まりは健全な1人用の箱型サウナでしたが、箱から手を出せない客の顔の汗を拭く女性が段々と職域を広げて、私の少年時代には、もう「トルコ＝個室売春」と誰もが認識していました。1981年にイヌレット・サンジャクリというトルコからの留学生が「国辱だ」と騒ぎ、事情を訊いて同情した小池百合子（都知事、当時はテレビキャスター）が時の厚生大臣・渡辺恒三に陳情した結果、1984年の暮れから一斉に「ソープランド」に改称しました。
横山勝也先生が言ってました。「女性に広める為にも、尺八も同様に（口による男性器玩弄）違う言葉に出来ないものですかね」。出来ませんよ。だってトルコは仮にも国名ですが尺八は単なる人気の無い楽器名ですもんね。力の有る人が動くわけないです。
今の女性の尺八への参入の多さを横山先生に見せたかった。私の若い頃と違って、もう安酒場で「オネエチャン、シャクハチ上手いんだってね」と横から口を出すドカタや欲求不満オヤジも見ないそうです。そっか、考えてみたら当然だわ、若い女性が酒場に出入りするのが当たり前の時代ですから、もうドカタ飲屋もボヤキサラリーマン御用達の赤チョウチンも行きませんや。そう言えば「女性には尺八は向かない」と言う学者センセイも姿を消しました。演奏判定能力では素人であっても口での批評だけはプロの学者さえ沈黙するほど、技量の高い女性尺八家が増えたせいです。

トルコはイスラム教でありながら、戒律を重視しない「世俗国家」です。つまり政教分離。まあ一般に先進国と言われる国は「世俗国家」ですがね、尺八も流派会派が統制力を発揮する力が無くなったので、自分達の都合で作った「お手盛りルール」が無くなりましたから、未来が明るく開けました。新しく価値観を取り入れない文化が発展する時期も有りますが、それって一時ですわ。すぐに爛熟がカビの生えた「形の保持」となり衰退します。そりゃそうだ、次のステップへのエネルギーに満ちた退廃、混沌、突破の段階が無いのですもの。近世になってからのトルコはじめ中国、インド、中近東、かつての大文明を誇った地域がそうでしょうが。
ロシア革命の後、ソ連は帝政時代の借金を全て踏み倒したのに反して、トルコ革命の指導者ケマル・アタチュルクはオスマン時代の債務を引き継ぎ、数十年かかって完済したので「義理難い」と賞賛されました。。何処とは言わないけど、会員が積み立てたはずの年金を払えなくなり、「騒いでも、どうせ老人だから無視していれば、時間が解決する」で頬カムリした邦楽の大組織、信用は大切なんだよ。ウチだってトルコ人は代金後払いでオーケーよ。（何故って、実は何処の国に人にもそうしてるからね）。