回転寿司

私が初めて回転寿司を見たのは大学を卒業した年、昭和48年です。新宿西口、今は「思い出横丁」というシャレタ名前になっていますが、当時は「柳横丁」　もっとも誰もそんな呼び方はしていません。学生、安サラリーマン、日雇いに客層を限定したドカタ飲み屋、バスエ食堂ばかりで、みんなタチションするので常に小便の匂いがしていました。だから皆「ションベン横丁」　通称「ション横」と言っていました。その「ション横」の大通りに面したところに出来ました。「元禄寿司」一皿50円です。

回転寿司が出来る前の寿司屋は、食べ終わって勘定になるまで値段が分からないのが普通でした。回転が悪いのでネタの古いのを出すところ、信じられないくらい気のきかないところ、技術レベルが低いところ、客とじゃれあって店をモタセテいるところ、変にオタカクとまっているところ、そんなのザラでした。今、そういう店はすべて潰れました。
回転寿司も初めの頃は、ネタは良いとは言えませんでしたし、形も不恰好でした。客も「値段が安いし、明朗価格だからマア仕方ない」と許していましたが、キョウビの回転寿司ときたら、形はキレイだし、ネタの回転が速いので新鮮です。高いだけで技術の半端な寿司屋が潰れるのは当然です。

それまでの寿司屋は、骨董と同じく「ウンチクビジネス」で、多くは客をくすぐることで店に繋ぎ止めていました。
客がどこぞの寿司屋で仕入れたたハンパ知識を披露する、寿司屋は驚いたふりをして「良くご存じですねえ、こりゃ参った、お客さんみたいな通ばかりだとコッチの商売も大変だ」　
言っときますが、本当に分かる客にはこういう言い方はしませんよ、寿司屋も尺八屋も・・・。

名人が営む寿司屋で、食べる前から値段が決まっている店が有ります、勿論高いです。そういう寿司屋も有ると良いですし、「どうせ接待費だ」と言う理由、社会的に成功したステータス、何かの記念、あるいは「最高を一度経験したい」　あるいは本当に味が分かる、マア理由は何でも金を払う人の自由ですが、ともかく高くても「極上」が有るって業界が明るくなります。

10年ほど前になりますか,、若い時に何かとお世話になった河野玉水さんから電話をいただきました。「XXさんが来てね、アンタの安売りのせいで潰れると言ってたよ」
正直に言うと、そう言ったのはXXさんばかりではありません。潰れたのは私のせいばかりだとは思わないですが、それにしろ潰れて「エッなんで」と思った人はその中にいません。

まじめに仕事している技術のしっかりしている製管師ですら仕事に詰まるのが今の尺八界です。回転寿司に押されても工夫ひとつ出てこない言葉だけの「本格的な店」が潰れるのは仕方ないんと違いますか・・・、