袖すりあうも 其の二（天地真理さん）

昭和48年、私が大学を卒業する少し前、師匠の坂田誠山先生から有難いお話をいただきました、「エスビー食品の夕食会で尺八を吹いてみるか？ギャラ5千円だってよ」。　　勿論のこと「有難うございます。お願いします」と返事しました。


その頃のアルバイトは1日2千円になれば上々でした。

もともとは山川園松門人の川原崎園碧（かわらざき　そのみどり）先生のところにきた仕事でしたが、「山川曲」には尺八も必要なので坂田師匠に声がかかったと言うわけです。

川原崎先生のご自宅で下合わせ。その時も舞い上がりました。
20人くらいの若い綺麗なお弟子さんーその頃は若い女の子が、たくさん箏を習っていたのですね.
「先生、先生」と呼ばれましたーオレ、まだ大学生ですって。センセイと呼ばれたの生まれて初めてです。
お弁当も二段重ねの仕出し弁当ーあんな豪華な弁当も生まれて初めて、その後も有ったかしら・・・
帰り際、渡された「お車代」が2千円ーだから1日のバイト代ですって。

後ほど坂田先生から一言　「毎日有ると思うなよ」　　その頃、もう一つギャラのある尺八の仕事が入っていましたので、もし、フラッとなっていたら、それで一生を棒に振るはめになったことでしょう。考えてみれば、どこに人生の岐路、落とし穴が有るか分からないもんですね。・

本番は、帝国ホテルでしたが、その頃、エスビー食品のコマーシャルをしていた天地真理さんと同じ控室だったんですよ。その頃の天地真理といえば人気の凄さは「飛ぶ鳥おとす」なんてもんじゃない、会えば、死人すら甦りました。実際に私が見たわけでは無いですが、皆そう言っていましたから、きっと本当ですよ。
それが、ほんの少しとはいえランクの下がる私と、よく同じ控室を承知したものです。テレビの歌番組やドラマで知っていましたが、本当に謙虚で優しいお人柄なのですね。さすがは白雪姫みたいな心しかない御方だけの事はあります。

尺八をやっていて良かったァー.。　私の美しい青春の思い出です。きっと天地真理さんも、たった一度だけ会った美青年の面影を今も胸に抱いていると思います。