地区三曲協会

私の住んでいる小田原近辺では４年前まで尺八は香川一朝の独壇場の感がありました。４年前に香川さんが亡くなると、たちまち気のきいた演奏をする箏のお師匠さんが困ってしまいましたが、今では香川さんのいなくなった穴のかなりの部分を弟子のＡさんが埋めています。
Aさんより上手な尺八吹きがいないわけでは無いのですが、問題は音程と姿勢です。

２０年前までの尺八吹きの音程感覚の悪さたるや言語に絶しました。特にヒドイのが琴古で、古典しかやらないことが一番の原因でしょうが、皆で箏とのユニゾンを外して吹いて、なおかつ「邦楽の音程」だと開き直っていました。小田原はその典型的なパターンで、多少なりとも音楽の分かる人達からはハッキリ口に出して呆れられていました。
小田原三曲協会にはどういうわけか都山がいません。都山流の人はいますが三曲協会に入らないのです。香川さんが生きていたころは「都山の人が琴古より上手いと言うんじゃないですが、都山が入ると少なくてもアンナひどい演奏会にはならないでしょう」と事あるごとに言ってきましたがね、もうダメでしょう。
何とかなる時期はもう過ぎました。小田原三曲協会では、あと１０年もたず尺八は数人に減ります。３０年前は会員２００人だったのですが、今はその三分の一、それより何より若い者が尺八にはいませんよ。

私が聴いた範囲でも小田原にはＡさんより音や手捌きで上手いと思う人が２人います。けれど音程対応が悪いことと糸方からの指示を無視することで、相方としての指名はＡさんに来ています。

かつての邦楽界は、糸方の師匠は尺八のことをトヤカク言わなかったものです。言えばカドが立つし、言っても無駄だし、それより和気藹々、尺八がいて便利な点も有るんだからマア仲良くやるのが一番、邦楽の会はコンサートでは無いんだから、あまりウルサイことを言っても仕方が無い、それより協会の雰囲気が大事。
そういう事を優先していましたな。本番の三曲合奏では糸方は尺八を聞いていませんでした。
ところが、この２０年「邦楽の会でもチャンと音楽をやろう」という気鋭の箏のお師匠さんが何処でも出てきました。尺八に相方として求めるのも地区三曲という狭い世界のヒエラルキーでは無く、一緒に音楽としての邦楽を追及できるパートナーかどうかに変わりました。
今や地方レベルでも邦楽は芸から音楽へと急速な変貌をとげつつあります。地域の尺八家では手に余ると思えば、他から上手な人を呼んできて曲を賄いますし、それに今は実に上手いアマチュアの尺八吹きが何処にでもいます。
こういう事態ですから、地区の三曲協会は解体に向かう所が多くなると思いますが、その廃園の跡に見たことも無い綺麗な花が咲くと私は思っています。