尺八熱

私が大学の頃、イヤ70年代いっぱいまで大勢いましたなあ、尺八バカが・・・。熱にうなされるようにして尺八を語っていた人達、今どこに行ったの？。
議論に熱中するあまり青木鈴慕や横山勝也にくってかかって怒鳴られていた者もいました。でも先生達も後になって「あの男、どうしてる」と懐かしげに話していましたよ。私達法政大学三曲会の箏の指導は藤田都志先生でしたが、いつも学生の熱病にたじろぎ、後輩達に「あの人達はプロの悪口しか言わなかった」と憤慨していらっしゃいましたが、そのクセ私達と会いたがり、何か有ると声をかけてくださいました。

山本邦山先生は学生相手に怒ったり、まして年甲斐も無く怒鳴ったりはしませんでしたが、それでも一度怒った事が有ります。学生の企画した演奏会で、控室に御礼袋を持った女子大生が入ってきて袋を振りかざして、やらかしました。「ホーザンさん、何処？ギャラが出てますよ」
その場では何も言わなかったですが、後でズイブンこぼされました。「ボクだから良いけどね、少しは考えてよ」　ハイ、一言も有りません。邦山だからそれで済んだ、これがもし青木鈴慕だったら・・・。
自分と関わりが無いから見たいでしょう？よろしい、特別にこの大橋が見せてあげましょう。恐怖のシミュレート再現ドラマ。
「アオキさん、何処？ギャラが出てますよ」　一瞬にして凍りつく控室。シーン。サー（水をうった音）
KY女子大生はギャラの入った封筒を振り上げて、なおも「アオキさーん、何処なの」　ここで爆発。控室の外まで響く、ちゃちい会場だと客席にも届く大音声の怒鳴り声。女子大生なんてもんは、それまでの人生で人から怒鳴られた経験なんてマズ有りませんわ。ただ竦みあがります。こうなると相手が多少カワイイ女子大生でも無理、堀北真希でも無理、西内まりやでも多分無理。しばらくはタダひたすら畏れ入っている他ありません。
でも青木先生は頭の良い人ですし、根は優しいので、怒られた相手や周りが余程にバカをやらないかぎり、やがて治まっていきます。

その後のことは今度は学生の側の器量ですね。タダひたすら泣きじゃくる女子大生を、クラブをやめないように慰めるか、あるいは女子大生の礼儀知らずを注意するか。
私達の頃だとマズ間違いなく注意叱責しました。それでやめるんなら仕方が無い。どこの大学の邦楽部にも尺八熱に罹ったモノは多く、生ぬるい人間関係より尺八の方が大切でした。世の常識や礼儀を教える為なんかじゃないですよ、誤解しなさんな。日頃プロの悪口は言っていても、そこはそれ、プロが小娘にナメられては黙ってはいない。
私達の代の法政の首領は粟田でしたが、普段はオンナにデレデレしているくせに、こういった事になると、相手がたとえ密かに性欲と劣情を抱いている女子であっても容赦なく叱ります。
ですから昔の学生邦楽の人や先生でも粟田の名前を出すと皆憶えていて懐かしそうにします。
尺八熱にうなされていたアノ頃、ハシカなんかと違いますぜ、その証拠にリタイアした、この頃また熱がブリッ返してきています。