少年探偵団

また昔話です。どうせこの尺八の世界にいる人の八割は私より年が上。しばし思い出話にひたりましょうや。若い方は「三丁目の夕日」のつもりで読んでください。
私の子供時代は探偵ゴッコを男の子は皆やっていました。当時はプライバシーなんて言わない時代ですから、勝手に人の家の庭に入り込んで、様子を覗き見たりして、カミナリオヤジの餌食になったりしていました。探りあてた事柄は駄菓子屋で売っていた探偵手帳に書き込みます。最大の収穫はオネショの発見です。布団が干してあるのが動かぬ証拠ですわ。モチロン翌日、教室で皆の前で発表します。黙っていて陰で脅すような陰険なマネはしません。
ボッ、ボッ、ボクラはショーネン、タンテーダン～。

何年か前に、尺八の発送の為に佐川急便に持ち込んだところ、担当のハタチくらいのニイサンが中は何だと聞くので、尺八だと言うと「シャクハチって何ですか？」と聞くじゃないですか。
アンタ本当に尺八を知らないの？　「はあ、知りません」　時代劇で虚無僧が吹いているじゃないですか？　「時代劇って見たこと無いんですよ。知らないとそんなにオカシイですか？」　オカシイと言うより、恥ずかしいことだよ。ウン、日本人で自分の名前を漢字で書ける者なら皆知っている。それを知らないなんて、世の中で三番目に恥ずかしいことだ。
「まさかそんな・・・。ところで一番と二番は何ですか？」　順番は人によって違うが、まず満員電車の中で糞をもらすこと、寝小便をして教室で発表されることだろうな。そうやって、しばらくニイサンと遊んでいましたがね、ともかく昔の少年探偵はムゴイものでした。世の為なんかでなく、人の知られたくない真実を容赦無く暴き立てました。
昔の子供は、そうやって互いのプライドをズタズタにしながら強くなって行きました。どう思うかは人によりますわな。ただ私の周りでは、被害者も皆が楽しそうに思い出として話していますよ。

しかしまあ、今は尺八を見たことも聞いたことも無い若者がすでに棲息しているんですね。私の子供時代は勉強をしなかったので「低能児」だらけでしたが、さすがに尺八を知らぬ者はいませんでしたわ。
横山勝也先生のおっしゃった事です。「僕はね、女の人が男性器を口に咥えることをシャクハチと呼ぶと初めて聞いた時は、それは物凄くハラがたちましたよ。でもね、そういう事であってもシャクハチが人の言葉に出てくるだけマシかなとも思います」
私を含めて人って知らなければそれまでです。ですが偶然にしろ尺八を知って仕事にしたからには、尺八を知らない者など一人もいないようにしたい。
「自分が仕事にしたからか？偶然にシャクハチに出会ったんだろうが」　そう言う人にはニーチェの言葉をおくります。「人はその仕事が他のどんな仕事よりも重要であると思わないかぎり、その仕事を続けてはいけない」