私の展示会には、ここ15年では吹奏・鑑定のアドバイザーとして例外なくプロの尺八吹きに入ってもらっています。私は依頼する時に誰に対しても「売って頂く必要はないから、邦星堂とお客さんとの中立の立場で鑑定して、悪ければ悪い、悪くなくても吹き手と合わないと思ったら正直に言ってくださって結構です」こう言ってきました。
それで逃した売り上げは数知らず、でも、それで獲得した顧客も数知れず。客が買う気で「これ買おうと思うんだがどうですか?」と持ってきた尺八を「出来が悪い」、「アナタの吹き方に合っていない」と言われた人が、その後大変な顧客に変わったケースなんて数え切れません。
最初の頃は、お客はダイタイ私より年上でした。そして、この人達は失礼ながら吹奏力という点では怖れるに足らなかった。その分ウンチク解説が今よりズ~ッと必要でした。ですから私で十分だったのです。
その頃でもプロ、セミプロの多い東京周辺での展示会にはプロに入ってもらいました。東京周辺が特別に上手いということは無いのです。平均値で言ったら15年前は名古屋周辺や岡山・香川が最も技量が高かったと思います。これは残念なことですが、当時は民謡、琴古がいない所ほど吹奏では平均点が高かったですね。
でも、何度でも何十度でも言いますが、私は琴古に多かったウンチクに重きを置いていた「オタク爺さん」達が好きでした。
東京や大阪などの大都市周辺にはプロ、セミプロが多い。このうちプロは我々に対して失礼な事は言いません。問題は、相当上手なプロ未満の人です。日頃周りから「凄い凄い」と言われてテングになっていますからね。
最初の頃の東京周辺の展示会ですよ。若い方でかなり上手い人が来まして、並んでいる尺八を片っ端から吹いて貶すのです。こういうの私の所ではオーケーです。人の口に戸は建てられませんや。
その人が全部吹いて言いました。「マアマアだと思うモノも有りましたが、良いとは思いません」 このセリフは1何百回も聞いていますので何とも思いませんが、その時は他にタクサンお客がいましたので、鑑定員を頼んでいた橋本竹詠さんに出てもらいました。
橋本さんはニコニコして「アナタは良い音で吹きますね。でもポーズが少し悪いですね。こういう具合に角度を変えて吹かれたら、もっと上手になりますよ」と言って、片端から「問答無用の音」で吹きならしました。力量の差は歴然です。
この経験から展示会には鑑定員が是非とも必要だと思ったのです。つまり鑑定員とは用心棒でも有ります。では、もう一歩進んで鑑定員がセールスマンだったら?
見解が違いますが、私はマイナスだと思います。製管師と濃厚な利害関係を持つプロ尺八家が鑑定に立つと、どうしても売りたいという願望が先走ってしまい、「売り込み」になりがちです。有名プロが凄い音で吹いて「これ良いですよ。買ったらどうですか」と奨めれば、私も経験が有りますが、それは売れますよ。でもネエ、その後での事を聞くと私は躊躇します。
ですから私の展示会では、お客が希望しない限り売り込みは無し。私の所で「買って下さい」と言われた人はいないはずです。
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