アメリカ進出

戦前の満洲国とか除けば、日本に次いで、外国で初めて尺八を「社会」という規模にまでしたのはアメリカでしょう。35年前には、すでに尺八専業者が複数存在していて、「TAKE NO MICHI」という機関誌まで有りました。
その頃に来日したロニー・セルディンやべりー・ワイズに聞いたところ、アメリカに尺八吹きは百人以上いるとの事でした。
今は五百人ではきかないでしょう。プラスチック尺八の「悠」がアメリカで一万本以上売れていると聞いたのは、もう数年前のことです。持ってはいるが尺八界に入っていない人は、もう万単位です。

私は、もう十五年も前に、明日にでもアメリカに進出する準備をしていました。

どうして未だにアメリカに出て行かないかって？　アメリカ相手のビジネスコンサルタントである曾我さんに忠告されたのです。曾我さんは横山勝也先生の中学の1年後輩で、長くアメリカのシリコンバレーで会社を経営なさっていて、帰国後はアメリカ向けのビジネスコンサルタントをなさっている方です。

「大橋さん、アナタ考えが甘すぎる。アメリカの訴訟のことは聞いているでしょう」

聞いてます。風呂にいれた猫を乾かすため電子レンジに入れた。死んだ。「猫を入れるなと説明が無かった」　　勝訴。
泥棒が家人に見つかり逃げた、ところが屋根を踏み抜いてケガ。「屋根の管理が不十分だった」　　勝訴。
店でコーヒーを飲んでヤケド。「ヤケドに注意と書いて無い」　　勝訴。
バカじゃないかという判決のオンパレードです。

「漆カブレがおきたら下手すると傷害罪で訴えられますよ」　　ユルシテと言ってもダメでしょうね・・・
「割れたらどうします？　演奏会にでる予定が有ったとします。会に出られなくなった遺失利益。さらに会に出ることで将来得られてたであろう利益。そういうのが全て賠償請求の対象です」　　本当は多くて１００ドルくらいのものでしょう・・・　
「それと精神的に傷ついたというのが厄介です」　　誓って言いますが、尺八が割れたくらいで傷つく様なシュショウなアメリカ人尺八吹きなんて一人だって心当たりが有りませんが・・・

「要するに今までが運が良かったと考えるべきです。100回大丈夫でも101回目にクレームに当たったらダメなのがアメリカ社会です。その用意なしに展示会をやろうというのは無謀です」

とマア、そういうことで未だアメリカへは本格進出していません。インターネットでの注文をうけているだけです。先月2本、先々月1本。こんな調子です。でも・・・