浅草

お客が尺八を持ってきました。「家に有ったんだけど、どういうモノかと思って」。それは構わないです。私で良ければ、ということで同様の事は月に一回くらい有りますかね。
その時の尺八は楽器では無く、芝居の小道具に使う尺八でした。これは浅草に行けば売っていました。１９７０年ころで３千円ほどで買えました。竹に孔を開けただけですからね。歌口が描いたものではなくプラスチックが入っていたり、中継ぎが有ったりすると、もう少し高かったようです。

浅草は戦前は東京屈指の盛り場でしたが、昭和３０年代になると徐々に衰退していって、４０年代５０年代はサビレタという感じでしたね。一番の理由は山手線から外れて交通の便が悪くなった事でしょう。セイゼイが上野まで、代わって山の手の盛り場、渋谷、新宿、池袋が全盛に入っていきました。
浅草は時代に取り残されても、それだけに戦前の芝居小屋や寄席が林立していた名残が有って、芝居に使う小道具を売っていました。尺八もそういうわけで誰が作るのかは知りませんが売っていました。
今同じモノを私が作るとすれば５千円位で出来ますね。小売りのマージンを掛けて売値一万円ですかね。ただ当時でも会社レベルではやっていなかったと思います。オジイとオバアが内職で作っている、マア昔はどの街にも有った駄菓子屋と同じ産業構造ですわな。
浅草に行けば紋付羽織袴をセットで揃えて当時１万少々で買えたので、若いプロ尺八家の中には買って着ている人達がいました。ご丁寧に貼り紋も売っていました。これも芝居道具ですが舞台の上では分からないですからね。
紋付袴は尺八で頻繁に舞台に立つ者には必需品です。私は４０年前に作りましたが当時で２５万です。高すぎる。そこで２０年くらい前に若い尺八家に頼まれて教えましたが、この頃では４万５千円になっていました。

それがこの頃では近代化の遅れたレトロ感に、かえって人気が出て再ブレークです。外国人も「古い日本」だと思って詰めかけています。
ただ昔の浅草を知っている人間にしたらレトロな感じは無いですね。かなり上手に作った「伝統」という感じです。
これって参考になりまっせ。尺八は勿論のこと、伝統を売り物にしている産業は、このやり方以外で生き残れないと思います。後は本当に伝統を守って天然記念物の保護区で細々と生きるかです。どっちだって自由ですから勝手に選択してください。