花見

大学の時は４月の声を聞くとクラブ勧誘、新入生を獲得する準備です。私の３年生の時までは新人が５人入ると６人辞める、その位に法政大学三曲会は歩留まりが悪かったのです。特に女性が居着いてくれず、悩みの第一でした。
女の子が少ないと男も居着かない。だって大学生ですよ、性欲が一番盛んな時に殺風景な雰囲気のクラブにいると思う？その何よりの証拠が三曲会から分離した法政琴古会ですよ。男ばかりなので６年で消滅しましたわ。

新入生勧誘は、少しでも興味を示した者を部室に連れて来て、強引に酒に連れ出します。新入生は大学に誰も知り合いがいないくて不安なのが普通ですから、そこを突いて取り込むわけです。
自分から尺八をやりたいと飛び込んで来るヤツ？、ああ、いない、いない。余程の変わり者、天然記念物級の時代遅れ、他の何処のクラブからも断られたスネ者、ようするにマトモな人間では有りません。私のいた４年間で、そういう人間は都山流尺八楽会新潟支部大師範・高橋照誠山、それと一緒に来て３ヶ月でやめた田中という函館の男だけです。

春の法政は桜の花の中に大学が有りました。外堀公園、千鳥ヶ淵、そして靖国神社、いずれも桜の名所です。そこへ新入生を花見に連れ出し酒、酒、酒。新入生の勉学の熱意も青雲の志も「ああ、そんな事はどうでも良い、飲め飲め」。それで呆れながらも何となしに面白味みたいなものを感じてくれた者が新会員になるのです。
そして５月の合宿、夏休み、ここまで辞めなかった者がようやく「お客さん」ではなくなるのです。さらに２年になる春休み、３年になる春、ここでも辞める者はいますが、この段階を越えて３年生になると、もうほとんど最後までいますね。

そして卒業。あれだけ熱心に尺八、邦楽をやっていたのに、社会に出て続ける者は１割です。それは仕方がないとも言えますが、邦楽を聴く事も無くなります。何故、どうして、どういうわけ。知れた事。邦楽をやってはいても、実はほとんどの人には古典や現代邦楽がホントは面白くなかったからですよ。ですから「ソフトの何でも有り」が大切なんだと私が何度も言ってるんですわ。
まあ、今さら言わなくても、そうなりましたけどね・・・。