心を見せる

毎日５分、ロの乙を吹けば名人になれる。こう言ったのは海童道祖です。これってホントはどうか知りませんが、５年前に長男が尺八製作に参加したいと希望したおり、これを義務付けました。それで明らかになりました。名人にはほど遠いですが、基本となる「音の迫力」はある程度達成されたようです。
製管師は演奏は必ずしも上手である必要はありません。音感もチューナーが有るのでソコソコで可、指裁きだって客に試し吹きを所望されてメロディーを吹いた時に恥をかかない程度のものが有れば十分です。その分、クセの無いポーズ、そして迫力のある気持ち良い音を出すことが一番重要な事です。

管楽器という物の中でも、尺八は最もと言えるくらいに吹き手との相性が問題になってきます。尺八を吹く人の大半は楽器プレイヤーとしては未熟だとか、多くの尺八が未だ尺八としてはともかく、楽器としては完成度が低いとかの意見は、この際ですから横に置いておきます。
楽器としての機能だけ論じるならプラスチック管で十分なのです。プラスチックだから竹だからで音が違うと思っている人もまだ存在していますが、非科学的な意見ですから、それも、この際ですから無視します。
「プラスチック尺八は内吹き外吹きの問題をクリアできない」という見解は「それはそう」であっても、現実に問題化するケースは言うほど多く有りません。そうすると、内径がしっかりと計算されていて、かつ完全に復元できるプラスチック尺八は最良とも言えます。しかも安いですからね。
吹き手との相性の違いはプラ管で最初からやれば問題化しないでしょうし、次に出現して、おそらくプラスチック尺八を駆逐すると予想される「３Ⅾ尺八」の段階で完全にクリアされます。

では３Ⅾプリンターで製作される様になれば、それに関わっている製作者はもう「ロの乙」を吹く必要が無くなるのか？　そう思う人は多くないですよね。新しい内径の設計やバリエーションを増やす事は、人間やソフトが千差万別である以上は、たぶん永久に止まりません。それは机の上だけの計算では出来ない事です。
それと、人間の能力は技術的にも感覚的にも機械には勝てません。でも機械には全く同じ物を「違うもの」と誤認できる能力が有りません。
言い方を変えれば、写真は被写体を正確に写せるかも知れませんが、絵の様に「見えないもの」までは写せないですよね。「騙し絵」に騙される能力は人間だけの特権です。
では音は機械で完全に捕捉出来ますが、「聞こえない音」をどう人に認識、正しく「思い込ませる」のか？

これって、竹の尺八は出来るんですよ。その為には作り手が心を入れて作る、少なくとも自分でそう思い、他人にそう思わせないと駄目ですわ。ですから毎日ロの乙を吹く事が大切なんですよ。だって人って、製管師は精魂込めて一心不乱に尺八製作に取り組んでいると思いたいんですぜ。だから製管師もチットはそれに応えなかったら駄目でしょうよ。アナタだってＴシャツを着た長髪ニイチャンの握った寿司を食べたいと思いますか？