尺八常識の転換
- 2017/06/11
- 16:42
「実証抜きでは、どんな事も盲信せず、どんな事も否定するな」が科学の基本姿勢です。だからという分けではないですが、私は尺八製作に関しても「伝統的知識」なるものは、まず疑い、その中にも信じられるものが一部ではあっても存在していた事を学びました。長い時間をかけ、多くの人達の経験知の集積である「伝統」なるものが、全部デタラメなどという事は有り得ないのです。
迷信もまた伝統的知識ですが、それに捕らわれていた人は、残念ながら尺八界では多かったのですが、それでも刻々として過去の遺物になりつつあります。
たとえば「硬い竹の尺八は響きが良い」などと今言えば、笑い者になりますが、20年前ですと多くの人が、まだ何となく本当だと思っていました。今でも強硬に同様の事を主張する人はいますが、すでに現在は「そういう人」と思われて、議論の対象としては見られていません。
江戸の中期では、もはや日本でも、地球の球体、地動説、自転、万有引力、恒星と惑星の別、それらの事はかなり知られていました。山片蟠桃の『夢ノ代』でも一読すれば分かります。
ですが、これらの事は一般的な常識とはなっていなかった。当時の「伝統的知識」の範囲では学者達でも何百年もの学問の集積にもかかわらず、今なら小学生にも冗談と採られる事しか主張できませんでした。
今なら山片蟠桃は尊敬の対象になるが、当時の「伝統的世界観」は別の研究対象になるだけです。当時(江戸中期)でも、実際はそうだったのでしょう。
尺八も多くの間違った「伝統的知識」の多くは、ようやく整理の段階に入ったと言う事です。まだ迷信にとらわれている人が多くとも、ハッキリと形に見えて、この30年、尺八の歴史も進みました。
でも、まだ驚く事が有ります。尺八というか竹の割れに関してです。
尺八は割れるという宿命を持っています。ですから成るべく割れない様に何工程もの下処理をするのです。尺八にする為の竹の下処理は全製管師にほぼ共通です。
① まず火に炙って油抜きをする。
② 天日に干す。ここは青い色が抜けるまでですから5日のことも有れば2~3週間かかる事も有ります。
③ 陰干し。要するに押し入れなどに入れて放置するわけです。人によっては②と③の間に、油付け、消毒の工程を入れます。
この自然放置の期間ですが、プロであるからには1年以下は無いでしょう。長ければ良いとも言えません。
ここまでの工程は全製管師の共通認識で、「伝統的知識は証明無しでは何も信用できない」が本分の私も流石に疑いは持ちませんでした。
ここまでの工程を踏まなければ、ほぼ確実に割れます。問題は、ここまでやっても割れるという事ですが、「それは尺八であれば仕方が無い」で済みました。
現在では、竹の割れ防止の為の様々な薬品加工法が存在していますが、いずれも尺八には不適当です。ですから、前記のやり方で割れの確率を低めてきたのです。
ところが・・・。
長い歴史に裏打ちされた割れ防止の知識、少なくとも③は、あるいは真逆なのかもしれません。自然放置では乾燥が進まず、全く反対に「竹を数か月間、水に漬ける」という説が出てきました。
勿論、それを信じているわけではありませんよ。ですが、伝統工法しか知らない製管師の惰性工法とは違い、その説には科学的な裏付けが有ります。
ですから、今年の青竹から、まず実験しようと思います。20本くらい「水漬け」にして、同じ産地の竹と比べてみるのです。結果が出るのは2~3年先きですが、これは歴史的な転換になるかも知れません。
竹は不幸にして、科学的考察を尊ぶヨーロッパや中東からアフリカ北岸のイスラム世界には産しませんでした。その為、木材などに比べて対処の知識が遅れた部分が有ります。竹細工などの、割る事から始まる作業は充分にノウハウが確立していたのですが、尺八の様に丸ごと使用して、しかも「背割れ」を入れられない物については、やはり立ち止まっての実験が必要ですね。
迷信もまた伝統的知識ですが、それに捕らわれていた人は、残念ながら尺八界では多かったのですが、それでも刻々として過去の遺物になりつつあります。
たとえば「硬い竹の尺八は響きが良い」などと今言えば、笑い者になりますが、20年前ですと多くの人が、まだ何となく本当だと思っていました。今でも強硬に同様の事を主張する人はいますが、すでに現在は「そういう人」と思われて、議論の対象としては見られていません。
江戸の中期では、もはや日本でも、地球の球体、地動説、自転、万有引力、恒星と惑星の別、それらの事はかなり知られていました。山片蟠桃の『夢ノ代』でも一読すれば分かります。
ですが、これらの事は一般的な常識とはなっていなかった。当時の「伝統的知識」の範囲では学者達でも何百年もの学問の集積にもかかわらず、今なら小学生にも冗談と採られる事しか主張できませんでした。
今なら山片蟠桃は尊敬の対象になるが、当時の「伝統的世界観」は別の研究対象になるだけです。当時(江戸中期)でも、実際はそうだったのでしょう。
尺八も多くの間違った「伝統的知識」の多くは、ようやく整理の段階に入ったと言う事です。まだ迷信にとらわれている人が多くとも、ハッキリと形に見えて、この30年、尺八の歴史も進みました。
でも、まだ驚く事が有ります。尺八というか竹の割れに関してです。
尺八は割れるという宿命を持っています。ですから成るべく割れない様に何工程もの下処理をするのです。尺八にする為の竹の下処理は全製管師にほぼ共通です。
① まず火に炙って油抜きをする。
② 天日に干す。ここは青い色が抜けるまでですから5日のことも有れば2~3週間かかる事も有ります。
③ 陰干し。要するに押し入れなどに入れて放置するわけです。人によっては②と③の間に、油付け、消毒の工程を入れます。
この自然放置の期間ですが、プロであるからには1年以下は無いでしょう。長ければ良いとも言えません。
ここまでの工程は全製管師の共通認識で、「伝統的知識は証明無しでは何も信用できない」が本分の私も流石に疑いは持ちませんでした。
ここまでの工程を踏まなければ、ほぼ確実に割れます。問題は、ここまでやっても割れるという事ですが、「それは尺八であれば仕方が無い」で済みました。
現在では、竹の割れ防止の為の様々な薬品加工法が存在していますが、いずれも尺八には不適当です。ですから、前記のやり方で割れの確率を低めてきたのです。
ところが・・・。
長い歴史に裏打ちされた割れ防止の知識、少なくとも③は、あるいは真逆なのかもしれません。自然放置では乾燥が進まず、全く反対に「竹を数か月間、水に漬ける」という説が出てきました。
勿論、それを信じているわけではありませんよ。ですが、伝統工法しか知らない製管師の惰性工法とは違い、その説には科学的な裏付けが有ります。
ですから、今年の青竹から、まず実験しようと思います。20本くらい「水漬け」にして、同じ産地の竹と比べてみるのです。結果が出るのは2~3年先きですが、これは歴史的な転換になるかも知れません。
竹は不幸にして、科学的考察を尊ぶヨーロッパや中東からアフリカ北岸のイスラム世界には産しませんでした。その為、木材などに比べて対処の知識が遅れた部分が有ります。竹細工などの、割る事から始まる作業は充分にノウハウが確立していたのですが、尺八の様に丸ごと使用して、しかも「背割れ」を入れられない物については、やはり立ち止まっての実験が必要ですね。
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